一度契約が成立した場合には,当事者はお互いに契約の内容を守らなければいけないのが原則ですが,クーリング・オフは,弱い立場にある消費者を保護するために,一定期間内であれば,何ら合理的な理由がなくても契約を解除できるという例外的な制度です。
クーリング・オフを行使できる場合,行使できる期間は限定されています。クーリング・オフはいくつかの法律で定められていますが,そのうちの代表的な法律である特定商取引法について見てみましょう。
特定商取引法において,クーリング・オフできる場合・期間として
①訪問販売(キャッチセールス,アポイントメントセールスを含む) 8日間
②電話勧誘販売 8日間
③連鎖販売取引(例 マルチ商法) 20日間
④特定継続的役務提供(例 エステティック,美容医療,語学教室,家庭教師,学習塾,パソコン教室,結婚相手紹介サービス) 8日間
⑤業務提供誘引販売取引(例 内職商法,モニター商法) 20日間
⑥訪問購入 8日間
そして,上記①~⑥の期間は,法定書面(特定商取引法に定める要件を満たした申込書面・契約書面)を受け取った日を1日目として数えます。そのため,法定書面を受け取っていない場合はもちろん,書面に虚偽の記載・不備があった場合には,クーリング・オフの期間は進行していないことになります。
また,事業者が,消費者のクーリング・オフ行使を妨害するために,虚偽の説明を行ったり,脅して困惑させた場合も同様にクーリング・オフの期間は進行していないことになります。
クーリング・オフの行使は,必ず,書面で行いましょう。下記の記載例を参考にして通知書を作成し,期間内に発信しましょう。さらに,証拠として残すために,通知書のコピーを取って,内容証明郵便や特定記録郵便,簡易書留の方法で送り,送付の記録も残しましょう。
【クーリング・オフ解除通知記載例】
クーリング・オフをした結果,契約は解除されたことになります。そのため,未払の代金は支払う必要がなくなりますし,既に支払った代金は返金されます。解約料は発生しません。
また,すでに受け取った商品等は,事業者の費用負担で引き取ってもらいます。この場合,既に商品(但し,化粧品・健康食品等の一定の消耗品は除く。)の使用を開始していたり,役務の提供を受けていたとしても,その対価を支払う必要はありません。
その後,それ以前にも次々と契約をしていたようで,押入れにはたくさんの健康食品がありました。返品できますか。
A 契約書を確認しましょう。法律で定められた記載事項が書かれていないなどの不備があれば,今からでも,クーリングオフすることができると思われます。また,次々販売の問題については契約者の判断力の低下に乗じた販売の可能性がありますので,周りの人の話や医師の診断など詳細を聞き取り,契約成立の有効性を検討する必要があります。
この事例のように,訪問販売で同種の商品・サービスを,日常生活で必要な分量を著しく超えて契約してしまった場合,過剰な部分は解約できる可能性があります。例えば,健康食品については,原則「1人が1年間に使用する量としては10か月分が目安である」とされています(公益社団法人日本訪問販売協会「『通常,過量には当たらないと考えられる分量の目安』について」参照http://jdsa.or.jp/quantity-guideline/)。そのため,1度に12か月分を契約したり,まだ6ヶ月分が未使用で残っているのにさらに6か月分を追加で契約したりした場合は,いずれも原則として2ヶ月分が過剰となりますので,この2ヶ月分を解約できる可能性があります。
また,「腰痛が治る」など,勧誘時の説明に嘘があるようです。このような場合は,特定商取引法ならびに消費者契約法による取り消しも考えられます。詳細はお近くの消費者相談窓口,弁護士会又は司法書士会に相談してください。
なお,本事例では認知症など判断力が不十分な高齢者に多い事例です。今後のことを考えて成年後見制度についても検討しましょう。
※特定商取引法とは,訪問販売や,電話勧誘販売など一般に消費者被害が起きやすい取引について規制している法律です。クーリング・オフ制度(無条件解除)もこの法律による規定になります。
そのほか,事例のように勧誘時の説明が嘘であったり,事実を告げていない場合に契約を取り消すことができるなどの規定もあります。
※消費者契約法とは,労働契約を除くすべての消費者と事業者間の消費者契約について規制している法律です。事業者の一定の行為により消費者が誤認や困惑した場合に契約を取り消すことができるなどを定めています。事例のように勧誘時の嘘の説明を信じて契約した場合に嘘に気づいて1年以内は取り消すことができるとの規定があります。
驚いて「誤操作の方はこちらへ」とあったので,電話したところ「契約は成立している,誤操作であっても翌日までに支払わなければ退会できない,支払わなければ債権回収会社に回す」と言われた。どうしたらよいか。
A お金を支払わず,お近くの消費生活相談窓口,弁護士会又は司法書士会に相談してください。
そもそも,今回のような事例では,有料のサイト利用契約が成立しているとはいえません。したがって,代金の支払義務はありません。また,仮に契約が成立していても,電子消費者契約法では,サイト画面に料金表示や確認操作画面(訂正できる機会も)が用意されていない場合,錯誤無効が主張できるので,やはり代金の支払義務はないといえます。
そして,事例のようにシャッター音がしたからといって,自分の顔が撮影されてサイトに送信されたわけではありません。サイトに電話してしまうと,知られていない個人情報を相手に教えてしまうことになりますので,絶対に連絡しないでください。
なお,今回の事例では,カメラのシャッター音に驚いてサイトに連絡してしまったとのことですが,ワンクリック詐欺では,サイト画面にIPアドレス,プロバイダ情報,固体識別番号が表示され,あたかも個人情報を知っているかのように不安がらせ,消費者に連絡させるという手口もあります。そのような画面が表示されたからといって,絶対に返信したり,電話しないようにしてください。たとえ連絡して,メールアドレスや電話番号が相手に知られても,氏名,住所などの個人情報までは調べられませんので慌てないでください。
また,最近は関連の二次被害が発生しています。ネットに消費者相談窓口を名乗るところがあり,「救済する」「張り付いた画像を消してあげる」などと書いてあったので,相談したところ,逆に不安をあおられ高額な解決手数料を支払わされたという相談がふえていますので注意してください。 *参照:IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)
A 近年、ネット通販詐欺が多発しており、『商品が届かない』『届きはしたがどう見てもコピー品である』『全く違う商品が届いた』『税関から通知が届いて止められた』などの事例があります。通信販売については、特定商取引法で広告の記載事項が定められており、価格、支払時期、商品の引渡時期、契約解除の可否(返品特約)、事業者の氏名または名称・住所・電話番号、等を表示しなければならないとされています。従ってネット通販を利用する場合は、事前に「特定商取引法に基づく表示」等をクリックして内容を確認することが大切です。しかし、中には有名サイトをそっくりコピーしたニセサイトもありますので注意しましょう。また『新品のブランド品が極端に安い』『日本語が不自然』『クレジットカードを選択しても現金前払いを要求される』などのサイトも利用しない方が賢明です。
クレジットカード決済の場合、割賦販売法により、2回払い、分割払い、リボルビング払いについてはカード会社に対して支払停止の抗弁が可能です。しかし、事例の場合は翌月一括払いなので法的には対象外、つまり支払いを求められる可能性があります。ただし、チャージバック※1という制度によって、取り消してもらえる場合がありますので、すぐにカード会社に相談しましょう。
現金前払いの場合は、振り込め詐欺救済法による救済※2が考えられますので、警察への相談をお勧めしますが、残念ながら被害救済に繋がらないケースも多いと思われます。
いずれにしても、まずはお近くの消費者相談窓口,弁護士会又は司法書士会にご相談ください。
※1 チャージバック:ネット通販詐欺では、購入者側のカード会社と、販売者側のカード会社を国際ブランド(VISA、MasterCard、JCB、Diners Club、American Expressなど)が繋いでいるケースがほとんどです。国際ブランドにはカード会社が相手側のカード会社に代金の返還などを求めるルールがあり、これをチャージバックと呼びます。チャージバックの理由(リーズン)や期限が決められていますが、商品が届かない場合や、権利侵害が明らかな場合は対象になると考えられます。
※2 振り込め詐欺救済法:金融機関が警察等の要請により振込先の口座を凍結し、被害者からの申請を受け、その被害額や凍結された口座の残高に応じて、被害額の全部または一部を被害回復分配金として支払う制度。
数ヶ月前、息子がアイテムを欲しいと言ったとき、1回だけの約束で、クレジットカード情報を入力して500円分のポイントを買ってやりました。そのときの情報がそのまま残っていて、カード払いを選ぶだけでどんどん買えてしまったようです。
息子はお金がかかるということがよく分からなかったと言っています。子供のしたことなので、契約を取り消すことはできないでしょうか。
A 中学2年生の未成年者が親権者の同意を得ずに結んだ契約ですので、未成年者取り消しができると考えられます。
このオンラインゲームの契約には複数の業者が関わっています。支払方法により事業者は異なりますが、このケースについては、ゲームサイトの運営業者と消費者との間にプラットフォーム業者(決済代行業者)とクレジットカード会社が入っています。未成年者取り消しをする場合、ゲームサイトの運営業者に申し出る場合とプラットフォーム業者(決済代行業者)に申し出る場合があります。
未成年者による高額利用が問題になり、サイト運営業者がアイテムの購入画面で小学生でもわかるような確認画面を設けるようになりました。
年齢により購入の上限額を設けて、該当する年齢を選ぶと「おとうさん、おかあさんのおゆるしをえましたか?ほんとうのおかねがひつようです」などと表示して確認するようになりました。こういう確認画面を設けていた場合は、子どもが「親権者の同意を得た」とウソをついたとして未成年者取り消しに応じないケースもでてきています。
年齢確認で、購入額に上限のない成人を選んだ場合も同様です。
取り消しができるかどうかは、状況により異なりますので、できるだけ早くお近くの消費者相談窓口,弁護士会又は司法書士会ご相談ください。
子どもの高額利用のトラブルを避けるためには、保護者自身もゲームや決済の仕組みを把握し、子どもに持たせるスマホでは携帯電話のショップで課金できない設定にしてもらうなどの対策を講じておくことが大切です。
※プラットフォーム業者 Google、Apple等
興味本位で適当に1年後の日時を伝え見積もりを取り、契約するかどうかは後日連絡すると伝えました。
後日、婚約者と話し合い契約しないことを伝えると違約金として10万円を請求するといわれました。見積書を確認すると、仮予約した場合は契約成立とみなすと書いていましたが違約金については何も書いていません。
契約書も約款もまだ渡されていません。支払う必要はあるのでしょうか。
A 一般的に、結婚式場の利用契約では、約款が定められキャンセル料はその規定に基づいて請求されることになりますが、規定のキャンセル料が高額で当該事業者に生じる「平均的な損害の額」を超える場合は、消費者契約法9条1項により無効となります。
仮予約時の書面に規定があっても、契約成立時期や違約金の説明は明確に説明すべきと思われます。式場と消費者のやり取りや交わされた書類等を詳しく検証する必要があります。詳しくはお近くの消費者相談窓口,弁護士会又は司法書士会に相談しましょう。
NPO消費者被害防止ネットながさきでは、消費者の皆さまから、不当契約・不当解約・不当勧誘などに関する消費者トラブルや被害情報を集めています。
皆さまからいただいた情報を分析・検討し、不当な契約条項や不当な勧誘行為などが判明した場合は、事業者に対して、それらを中止・是正するよう事業者に対して申入れを行うなどして、消費者被害の未然防止・拡大防止に役立てます。
皆さまからの情報が、消費者被害の予防につながります。
ぜひ、情報をお寄せください。
なお当。法人は、個々の事例の相談・回答・救済を行う団体ではありません。個別具体的な解決や相談は、お近くの消費者相談窓口、弁護士会又は司法書士会にご相談くださいますようお願いいたします。
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【提供を求める情報例‐こんなトラブルありませんか?】
※ 以下のものは、あくまでも例示です。解約や勧誘行為等に関することで「何かおかしい」「納得がいかない」と思う情報をお持ちの場合は、情報をお寄せください。
例1 購入した商品が壊れていたので、売主である業者に対して、契約の解約と返金を求めた。しかし、業者から「契約書に『事業者はいかなる場合であっても返金には応じない』と書いてあるでしょう。あなたも納得して契約したのだから、返金はできません。」と言われ、返金に応じてもらえない。
例2 業者の「在宅で高収入を得られる」という広告を見たので申込をした。申込後になって、業者から、「最初に内職用のキットを買う必要がある」と言われたが、高収入を得られるのだと信じていたので、10万円するキットを買った。しかし、その後、業者から連絡がなく、内職の紹介がないので、まったく収入を得られない。
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